【本稿はラジオ業界向けの内容であるため、ちょっと解りにくいかもしれません。ご容赦ください】

先日お打ち合わせをしたお客様は、スマートフォン向けアプリなどで成長中の企業。
当然広告はデジタルが主軸になるのですが
「デジタルでカバーできないターゲットを取り込むために」とラジオCMをご検討されています。
出稿のご意向は強いようですが、これまでデジタル広告がほとんどだったこともあって、
数的指標の考え方が「そちら寄り」であると判断しました。
実際、同様の動機で展開しているTVCFも、最近よく見かける「運用型テレビ広告」の
サービサーを使っていらっしゃるご様子。
ですのでラジオ広告のいいところだけでなく、ラジオはWeb広告のような数的指標を
苦手としていること、それを受けての善後策なども丁寧にお伝えしました。
(現在弊社では、数的指標を必要とされるお客様には、ラジオCMと
 radikoやSpotifyのオーディオアドを組み合わせて運用することをご提案しています)

テレビと違い、ラジオは毎日聴取率を調査しているわけではなく
エリアによっては聴取率調査自体を行っていない場合もあります。
ですから、テレビのようなGRP出稿も(原則的には)できません。
また、聴取による認知から意向の獲得、購買行動への遷移といった反応は
それらが同一のプラットフォーム上で行われるWeb広告と違い、追うことができません。
ラジオはじっくりと時間をかけて、「耳馴染み」になることを強みとしており
定量的な尺度より、定性的なそれを得意とする傾向があります。
例えば「スジャータ(めいらく)」のサウンドロゴ広告のように
ラジオ聴取者の生活行動<時間軸>における「当たり前にあるもの」になることで
売り場での想起と、購買に結びつけるような手法です。
また、金鳥(大日本除虫菊)や引越し侍(エイチーム)のように
ラジオならではのユニークなCMを創ることで、ラジオ単体でも充分な認知を獲得できるような
手法を取る広告主もいらっしゃいます。

ただ一般の広告活動において、ご担当者様が起案して組織の決裁を受ける流れの中で
数的指標がほとんど無い、というのはやはり不利なことです。
まして生活の中にラジオが無い方には、上記のような理屈はご理解いただけなくても
不自然ではありません。
実際には、現在ラジオのコンテンツ制作はほぼデジタル化されていますし
何よりradikoによって伝送/広告の部分的なデジタル化も進んでいますから
ラジオの未来を考えると、「営放システムのデジタル化/ネットワーク化」は
急務ではないかと考えます。

そこで、比較的短期に・少額の投資でラジオ広告を運用型にするには……と考えたのですが

・営放システムの統一規格化と高度な自動化
 →各放送局の営放システムがネットワークに接続され
  時間取り、素材登録、放送のシークエンスが(部分的にでも)自動化される。

・その後のDSP/SSP整備(これは難しくないと思います)

・RadiPosとDSPの接続
 →効率で考えると、DSPに直接入稿出来た方が良いのですが、素材の表現考査の
  問題などを考えると、RadiPosとDSPを接続する形が良いのではと考えました。
  そこから発展すると、RadiPosをSSPに進化させるという考えも導かれます。

・運用枠は通常のスポット(SB&PT)とは分けて設定
 既にradikoで実績のあるウォーターマーク方式か、時間確定方式でいけるのでは。
 ただし需要に対する枠の偏りを考えると、両者を併用することがベターでしょうか。

・既存の大手広告会社を中心にレップ契約を結んで販売

……こんな感じでできるでしょうか?

一方、聴取効果の数的管理はどうしても難しいですから、電通やビデオリサーチが推進している
Radio365を全国に導入して、拡大推計で対応するのが現実的ではないかと思います。
そうなると、全国でビデオリサーチによる共同聴取率調査を行う必要がありますが
そこは訪問留置法からWeb調査に切り替えて、しっかり調査コストを下げ、頻度を上げる必要があります。
このくらいまでなら、比較的各局の投資も少なめで行けるような気がするのですが
いかがでしょうか?
従来型のラジオ広告が苦戦しているのは、Web広告などと比較してあまりに数字での管理ができないこと。
ならば営放の経路だけでも現代化して、取引きの近代化ができないでしょうか。
すでに民放連や在京キー局、大手広告代理店はもう研究しているかもしれませんが
やるなら全国で一斉に導入する方が良いと考えます。
システム導入時のバーゲニングパワーは大きい方がいいですしね。

産業人口が減っていくなかで、営放系の業務は自動化が必須だと考えられますし、
0.1秒で入札→落札→素材準備→掲出ができるWeb広告に対して、3営業日前までの搬入が必要だったり
盆暮正月の繰り上げ進行が必要だ……という時間感覚は、相対的にかなり厳しいと感じます。
もちろん放送広告の意義を担保する考査などは大切ですので、
一定数素材をバンクする広告主に関しては、1営業日くらいで運用できるようにはしないと
ラジオCMの現代化は果たせないのではないかと考えます。

過日、民放AMラジオ44局が2028年秋までにFMへの転換を目指すとの発表がありました。
AMラジオの送信所は、その建設・維持・更新に膨大な費用がかかりますから
FMへの転換は、市場が縮小している民放ラジオにとっては致し方ない側面があります。
ただ、そのような産業的な事情での守勢的な変化だけでなく
広告取引の現代化も積極的に進めていかなければ、早晩産業は立ち枯れてしまいます。
ラジオの未来を切り拓くためにも、各放送局が前向きに議論しながら
その進化を果たして欲しいと心から願っています。
産業人としてだけでなく、いちリスナーとして愛するラジオのために。